コラム「実践から思う共生」

 東金で鴇嶺の家という宅老所をはじめて14年が経った。知らない土地でありながらも、出会った人たちにみんなに支えられ何とか実践してきた。

 近所に住むけいさんという80歳代のおばあちゃんの通いと泊りから支援は始まった。大きな施設に馴染めず転々とし、結果家族と自宅で暮らしていたが、自宅で看続けることに困難が生じ始めていた時期に、地域のつながりから鴇嶺の家のことを知ったことがきっかけだった。けいさんの通いが始まって3か月たったころ、ハナザワさんという青年の相談が舞い込んだ。彼は、特別支援学校卒業後、作業所で働いていたが人間関係でトラブリ、おばあちゃんの家に長く引きこもるようになった。頼りない私たちを手伝ってもらうことをきっかけに通ってくることになった。そして、タっちゃん・ショウちゃん、アイちゃんという可愛い子ども達が来るようになった。3人は、放課後や休日に過ごせる居場所がないことが理由だった。

 

 持ち込まれた相談・地域のニーズに応えていく中で、お年寄り、子ども、障がい者など多様な人たち(対象)に関わることができ、そして色々な気づきを得ることができた。
 けいさんをはじめとしたお年寄りには、自宅で最期まで暮らすことの尊さを、そして、ハナザワさんや3人の子ども達(今はもう大人)には、今でも、その生きざまから地域で暮らすことの意味や関わり合うことの大事さを気づかされ続けている。
 実践を続ける中で、対象が横断的であることへの共感の一方で、疑問や疑念も沢山いただいた。「生活リズムが違う、関わり方が違う、専門性が違う、一緒に居るとリスクが多いのではないか、関わりがなく辛くなるのでないか」等々である。言われることは全くその通りだとも思う。
 でも、一つだけ言えることは、私たちにとっては、〇〇さん、〇〇ちゃんでしかない。その人の困りごとや困難な状況を一緒に考えサポートしていくだけだ。そして、小さい場(コミュニティ)なので、日を追うごとに、来る人たち同士の中に関係性が生まれていく。関わり合いの中には、いいな~と感じること、どうかな・大丈夫かなと思うことも多々ある。ただ、それぞれが、なんとなく折り合い・受け止め、ときには距離を置きながらも共に場を共有し、時にそれぞれの困難さを解消することにつながることもあるのだ。
 私たちの役割は、そんな小さな場の関係性を黒子として見守り、ときにサポートすることを心がけて実践していくだけだ。

 

 今般、国では、急速な少子高齢化、人口減少、家族・地域社会の変容などにより、制度が対象としない生活課題への対応や複合的な課題を抱える世帯への対応、ニーズの多様化・複雑化に伴って対応が困難なケースなどへの対応のため、「我が事・丸ごと」地域共生社会の実現を進めている。今年4月からは、共生型サービスも制度化された。
 「共生ケア・サービス」を実践してきたものとして、「共生」を推進する仕組みや方法が多様に整備されることは、率直に良いことだと思うし、さらに進めてほしい。
 一方で、制度のもとに、(効率よく)丸ごとにすることや共生(強制)の場をつくることで、一人ひとりの思いや願い、尊厳や暮らしを無視した支援を助長させることになってはならないと強く思う。

 

 人間らしく・自分らしく地域や社会で暮らすために、又お互いのためになる共生のため、福祉や介護、支援は、どうあるべきか?思い悩むこの頃だ。

■執筆者:太齋寛(特定非営利活動法人ちば地域生活支援舎 代表理事)

 

1973年、宮城県生まれ。大学卒業後、(社福)宮城県社会福祉協議会みやぎボランティア総合センターに勤務、その後、(社福)東北福祉会せんだんの杜を経て、平成16年8月に、様々なご縁から千葉県東金市で多様な人たち(福祉関係者、本屋、百姓、当事者家族、ボランティア、研究者等)と現在の法人と鴇嶺の家を開設。宅老所の先達の実践に学び、法人の役職員と共に、地域密着の小規模多機能ケアや共生ケア実践する。基本、「黒子であること、人とひと、ひとと物事がつなげること、私発(ボランティア)の活動を応援すること」を大事にしている。
現在、一般社団法人ちば地域密着ケア協議会・事務局長、一般社団法人ひと・くらしサポートネットちば・理事兼事務局長、東金市地域密着型サービス事業者連絡会・事務局など、各種ネットワークづくりを行っている。また、千葉市社会福祉審議会高齢者福祉・介護保険専門分科会あんしんケアセンター等運営部会委員等もつとめる。
今の楽しみは、まちの小さな焼き鳥屋さんのカウンターで、一人で酒飲みをすること。早朝にサーフィンをすること。

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